最近、ゲノム編集食品に関する話題をよく耳にするようになりました。
ゲノム編集とは一体何なのでしょうか?
どのような食品が存在するのか?
その安全性についてはどうなのでしょう?
未知の世界であるゲノム編集食品について、しっかりと学んでいきましょう。
ゲノム編集って何?
遺伝子組み換え食品は、他の生物から取り入れた外来遺伝子を挿入することで新しい性質を持つ食品を作る技術です。このため、自然には存在しない新たな植物が誕生し、多くの懸念が生じています。そのため、安全性の審査が求められることも義務付けられています。
一方で、ゲノム編集は遺伝子組み換えの問題点を克服するために開発された技術です。
引用:https://www.meijo-u.ac.jp/sp/meijoresearch/feature/01.html(What’s ゲノム編集? | MEIJO RESEARCH | 名城大学)
植物に限らず、魚や鳥の卵など様々な生物に対してもゲノム編集が行われており、その倫理的な側面も問われています。遺伝子を操作する以上、国内外での議論は続いています。日本では、2019年10月に世界に先駆けてゲノム編集食品が解禁され、英語では「Genome-edited food」と呼ばれています。ゲノム編集には主に3つのタイプがあり、それぞれ異なる規制が適用されています。
3タイプのゲノム編集
ゲノム編集には3つのタイプが存在し、それぞれに対して政府の対応が異なります。
引用:https://www.shizenha.net/genom_editting/
- タイプ1.削除型:これは、特定の遺伝子をハサミで切り取るイメージを持つタイプです。狙った部位にダメージを与える酵素を細胞に注入することで、遺伝子に傷をつけますが、これは自然界でも発生しうる現象だと言われています。
- タイプ2.置き換え型:特定の遺伝子を別の遺伝子に置き換える方法で、似た性質を持つ品目同士の置き換えが行われるため、小規模な切断で済みます。
- タイプ3.追加型:新たな遺伝子を追加する方法で、野菜に健康に寄与する要素を加えることなどが含まれます。
ゲノム編集に関する用語解説
ゲノム編集に関連する用語はあまり馴染みがないものが多いため、ここでいくつか解説しておきます。
カルタヘナ議定書(法)とは
カルタヘナ議定書は、生物多様性の保全を目的とする国際的な取り決めで、日本は2003年にこの議定書を締結しました。この取り決めを実施するために、日本国内では2004年4月にカルタヘナ法が施行されました。
食品衛生法とは
食品衛生法は、飲食物を介して生じる健康被害を防止することを目的とした法律です。
表示義務
消費者庁によれば、タイプ1の削除型には表示義務がありません。一方、タイプ2およびタイプ3に関しては、遺伝子組み換え食品の規制に該当するため、表示義務が生じます。タイプ1の削除型に関しては、ホームページなどでの情報提供が求められるのみです。このように、オフターゲットの可能性があるタイプ1が表示義務がないということは、消費者が知らずに食卓に登ることや外食の際に知らずに口にするリスクがあることを意味します。
参照: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49976870Z10C19A9000000/
クリスパー・キャス9
ノーベル化学賞を受賞したクリスパー・キャス9は、タイプ1の削除型に分類されます。例として、商品化されたシシリアンルージュ・ハイギャバを挙げると、これはハサミの機能を持つ人工酵素キャス9を用いて、トマトに含まれるギャバの活性化を抑える遺伝子機能を失わせる技術です。その結果、ギャバは活性化され続けるため、トマトのギャバ含有量が通常の5倍に達しています。このクリスパー・キャス9を利用した研究は数多く行われていますが、その精度は100%ではなく、切り取った遺伝子が重要な役割を果たしていた場合など、予想外の事態が発生する可能性があるため、この技術は慎重に扱う必要があります。
どんな食品があるの?
ゲノム編集食品にはどのようなものが存在するのでしょうか。すでに商品化されている食品と、開発段階にある食品の両方を紹介します。
既に商品化されている食品
ゲノム編集トマト:シシリアンルージュ・ハイギャバ
こちらは、筑波大学発のベンチャー企業「サナテックシード」が開発したトマトです。すでにオンラインで販売されており、一般家庭でも手に入るようになっています。クリスパーキャス9の技術を用いて開発された、ギャバ成分が豊富なトマトです。
引用:https://aozora-shop.p-e-s.co.jp/products/detail/341
ゲノム編集マダイ:肉厚マダイ、マッスルマダイ
ゲノム編集によって、通常の真鯛よりも肉厚な特徴を持つようになっています。筋肉の成長を抑制する遺伝子(ミオスタチン)が機能しないように、遺伝子を切り取られています。上からの写真を比較すると、明らかに肉厚になっていることがわかります。
こちらは、ゲノム編集マダイを使用した京大バーガーの広告です。今年の2月20日から3月3日まで、100食限定で販売されていました。
このゲノム編集マダイは表示義務がないため、今後回転寿司などで使用される可能性が非常に高いです。
研究中の食品
- 芽に含まれる毒素を減少させるジャガイモ(理化学研究所・大阪大学・神戸大学の共同研究)
- 収穫量が増加するイネ(農業・食品産業技術総合研究機構)
- 養殖に適した特性を持つマグロ(水産研究・教育機構)
- 攻撃性を抑えたサバ(九州大学)
- 低アレルギー性の卵を生む鶏(産業技術総合研究所)
- ゲノム編集によって白くしたコオロギ(コオロギ徳島大学)
アメリカの実用例
アメリカでは、既に大規模に栽培されている食品が存在します。2015年にはゲノム編集によって改良されたサツマイモが販売され、J.R.シンプロ社(J.R. Simplot Company)がその製品を提供しました。2016年にはペンシルベニア大学のスピノザ研究所(Spinoza Mushroom Farm)からゲノム編集されたキノコが販売されました。また、2019年2月からは高オレイン酸大豆(カリクスト社)も利用が開始されています。こちらから抽出された大豆油は、以下のような表示がされています。
引用:https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4331/(解禁!“ゲノム編集食品” ~食卓への影響は?~ – NHK クローズアップ現代 全記録)
アメリカでは、植物のゲノム編集に対する表示義務はなく、遺伝子組み換えではないことや高オレイン酸であることが記載されているため、消費者が無知なまま購入してしまう可能性があるパッケージとなっています。
ゲノム編集食品の購買は自己責任
日本では、ゲノム編集のタイプによって規制が異なるため、ゲノム編集食品の表示が不明瞭な部分が多く、消費者は自己責任での購入が求められます。各国の方針やゲノム編集食品の潜在的な危険性について詳しく解説します。また、ゲノム編集食品を避けるための方法を一つ紹介します。
各国の方針
アメリカでは植物と動物での取り扱いが異なります。植物において、外来遺伝子(他の生物や植物から取り入れた遺伝子)が残っていない場合は規制の対象外です。一方、ゲノム編集動物に関しては、遺伝子組み換え食品と同様に規制する方針が示されています。
南米諸国やオーストラリアでは、外来遺伝子が残っていなければ規制対象外となります。
ニュージーランドでは、遺伝子組み換え食品として扱う方針が採用されています。
ゲノム編集食品の危険性
ゲノム編集食品には潜在的な危険性が内在しています。
オフターゲット
オフターゲットとは、狙った遺伝子以外の部分を誤って切り取ってしまうことを指します。例えば、ジャガイモは日光を浴びることで毒を生成しますが、緑色に変色するためそれが視覚的にわかります。しかし、もしオフターゲットで緑色に変色する遺伝子が切られてしまった場合、見た目は普通のじゃがいもであっても、実際には毒性を持つじゃがいもになってしまう可能性があります。
遺伝子の役割
狙った遺伝子を切り取ることに成功しても、その遺伝子が思わぬほど植物や生物にとって重要な役割を果たしている場合もあります。これがアレルギーの問題に発展する可能性も考えられます。一見成功したように見えても、後に予想外の影響を及ぼすことがあるため、注意が必要です。遺伝子の役割については、まだ研究が進んでいない未知の領域が多いのです。
オーケーシード
ゲノム編集食品に表示義務がないのであれば、逆に従来の食品に「ゲノム編集ではない」という表示をつけようという動きがあります。このマークの使用は無料ですが、登録が必要で、根拠を示す資料を提出する必要があります。このプロジェクトは意識の高い市民によって立ち上げられました。
このマークはまだ普及が少ないですが、今後増えていくことが期待され、認知度向上が求められています。
引用:https://okseed.jp/okseedmark/(OKシードマークについて | OKシードプロジェクト)
遺伝子を切り取ることは、遺伝子にダメージを与えることを意味します。不都合な遺伝子も含めて、完璧な植物や生き物が存在する中で、人間や社会の都合で編集を行うことには倫理的な問題が伴います。
まとめ
ゲノム編集食品について耳にする機会が増えてきたものの、理解が深まっていない方も多いことでしょう。この記事では、ゲノム編集食品についての解説を行いました。自ら進んで購入しなくても、知らず知らずのうちに食卓に上る可能性があるため、予備知識を持っておくことで、今後の購入時に役立つことでしょう。
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