使ってはいけない温水洗浄便座、温水洗浄便座の間違った使い方

温水洗浄便座を利用しておしりを洗うことは、今や多くの方にとって一般的な習慣となっていることでしょう。日本国内における家庭での普及率は、2021年3月の内閣府の消費動向調査によれば、実に80.3%に達しています。この温水洗浄便座は、おしりを洗浄し清潔に保つための便利な機器ですが、実は機械の構造上、洗浄ノズルが細菌による汚染を受けやすいという特性があります。さらに、誤った使用方法を取ると、細菌汚染の問題がより顕著になることもあります。現時点では、洗浄ノズルの細菌汚染が健康に直接的な影響を及ぼす事例は確認されていません(参考1、参考2)。しかし、今後も同様の健康被害が起こらないという保証はありません。そこで、温水洗浄便座を清潔に使用するための正しい使用方法や清掃方法について、しっかりと調査してみました。

(参考1)「温水洗浄便座の使用と痔疾、泌尿生殖器感染症との関係:3年間追跡web調査」

(参考2)「公衆衛生の専門研究者による研究成果の説明 温水洗浄便座は体によいのですか、悪いのですか?」

温水洗浄便座の基礎知識

細菌汚染について理解する前に、まずは温水洗浄便座の種類とその違いについて見ていきましょう。温水洗浄便座は、お湯の生成方法によって主に2つのタイプに分類されます。それぞれのタイプにおいて、価格や電気料金に違いがあるため、以下の表で比較してみます。

タイプ瞬間式貯湯式
お湯の作り方瞬時にお湯を沸かし、そのまま使用します。お湯は持続的に供給されます。あらかじめ沸かしたお湯を内蔵タンクに貯め、そのお湯を使い切ると水が出てきます。
電気料金安価高額(保温しているため)
本体価格高価安価
本体の大きさコンパクトな設計内蔵タンクがあるため、瞬間式に比べて大きめです

なお、電気料金や製品価格は各メーカーや各製品によって異なるため、詳しい情報は各社の公式ホームページでご確認ください。

温水洗浄便座(洗浄ノズル)に潜む細菌について

細菌は水分と栄養がない環境では生き延びることができません。便器内部には常に水が貯められており、加えて人間の排泄物は細菌にとっての栄養源となります。したがって、便器内は細菌にとって非常に居心地の良い環境と言えるでしょう。また、温水洗浄便座の洗浄ノズルは、機械の構造上、洗浄後に便や細菌を含んだ水が大量に降りかかるため、洗浄ノズル自体が細菌汚染のリスクが高い部分となっています。

洗浄ノズルによくいる細菌

温水洗浄便座の洗浄ノズルに付着する細菌の中で、特に代表的なものとして「大腸菌」と「緑膿菌」が挙げられます。これらの細菌は、共に人間の腸管内に存在し、糞便に混じって排泄されることが多いです。

大腸菌緑膿菌
細菌の特徴病原性が比較的低いとされる細菌です。ただし、食中毒の原因になることがあり、膀胱炎の原因としては75%が大腸菌によると言われています。また、O-157のような高い病原性を持つ菌も存在します。こちらも病原性は低めですが、水分の多い湿った環境を好む傾向があります。感染力は低いものの、病気や加齢によって抵抗力が低下した場合、感染することがあるため注意が必要です。
菌が潜む場所洗浄ノズル(参考3、4)洗浄ノズルおよび貯湯式温水便座の貯湯タンク内(参考3、4)
洗浄ノズルに菌が付着する原因洗浄時に飛び散った水が、洗浄ノズルに付着することで菌が付着します。大腸菌と同様の理由で、緑膿菌も付着することがあります。
貯水タンクに菌が発生する原因貯水タンク内では、大腸菌の発生が確認されていないという報告があります。貯湯タンクに貯められた水道水には、極わずかではありますが塩素が含まれており、これが水を殺菌しています。しかし、貯湯タンク内で水を温めて保存する過程で塩素が揮発し、殺菌効果が低下することがあります。その結果、洗浄ノズルから侵入した緑膿菌が貯湯タンク内で繁殖することも考えられます。

(参考3) 「温水洗浄便座の吐水に関する衛生学的な評価  従属栄養細菌及び緑膿菌の消長」

(参考4)「温水洗浄便座の吐水に関する衛生学的な評価〜温水洗浄便座での緑膿菌の分布と POT 型」

温水洗浄便座の間違った使い方

不適切な使い方をすると、使用時に飛び散る細菌の数が増加しやすくなります。また、細菌が付着しやすい洗浄ノズルを、清掃せず放置しておくと菌が繁殖する原因となります。洗浄ノズルを清潔に保つためには、どのような使い方が良くないのかを以下に説明します。

高圧の水流で長時間洗浄する。

高圧の水流で洗浄すると、洗浄後の水飛沫が広範囲に飛び散ることになります。これは細菌の飛散量や範囲が拡大することを意味しています。高圧の水流で洗うことで「洗った感じ」が強くなるため、つい高圧での設定にしてしまいがちです。また、洗浄時間が長くなると、その分おしりが「きれいになる」と感じやすくなります。しかし、洗浄後の水の量も増えるため、洗浄ノズルに降りかかる水の量も増え、細菌汚染が拡大しやすくなります。過度な洗浄は、肛門周囲の粘膜を傷める原因にもなり、かゆみを引き起こす可能性があるため注意が必要です。

排便前に洗浄する

排便を助けるために、浣腸のように洗浄を使用する方もいますが、これによって洗浄ノズルに便が直接付着し、細菌汚染の原因となります。また、洗浄ノズルに便が当たらなくても、便の塊に直接水がかかることで細菌が飛散しやすくなり、これも汚染の原因となります。排便前に洗浄することを習慣化してしまうと、浣腸の刺激がないと排便が難しくなることもあるため、おすすめできません。

肛門内やデリケートゾーン内を洗浄する

肛門周囲やデリケートゾーンの表面とは異なり、内部は複雑な構造をしているため、洗浄後の水が飛び散りやすくなります。特に痔の疾患を持つ方では、出血の原因にもなる可能性があります。また、ビデ洗浄を行う場合、デリケートゾーンにある尿道口や膣に細菌を押し込むリスクも考えられます。これにより膀胱炎や膣炎のリスクが高まるため、避けるべきです。

洗浄ノズルの清掃をしない

水分と栄養が豊富な環境では、細菌は容易に増殖を始めます。特に大腸菌は、条件(水分、栄養、温度)が整うと、最短20分で分裂・増殖することができます。ただし、トイレごとの環境や季節によって、気温や湿度が異なるため、必ずしも20分で増殖するわけではありません。ただ、洗浄ノズルに付着した菌は、洗浄時に水の飛び出しによって剥がれ落ち、洗浄水に混じっておしりに飛び散ります。

温水洗浄便座を清潔に使うために

おしりを洗うための洗浄水が細菌に汚染されないようにすることが重要です。そのためには、洗浄ノズルに細菌を付けない、そして増やさない使用方法を心掛ける必要があります。菌を付けないための工夫と、付着した菌を増やさないために洗浄ノズルの掃除が極めて重要です。

洗浄ノズルを定期的に洗浄する。

水洗いするだけでも、洗浄ノズルに付着している細菌の数を減少させることが可能です。洗浄の頻度は、最低でも週に1回は行うことを推奨します。さらに、洗浄ノズル専用の洗浄剤を使用することで、水洗いだけよりも効果的に菌の数を減らすことができます。最近の温水洗浄便座の中には、洗浄ノズルの洗浄や除菌機能がついているものも増えてきていますが、これに過信せず、定期的な洗浄を行うことが大切です。便器洗浄用の塩素系洗剤で洗浄ノズルを清掃することは避けましょう。塩素系洗剤は強力な殺菌力を持っていますが、温水洗浄便座の機械部分(金属)を腐食させ、故障の原因となる可能性があるため、使用しないことが望ましいです。

温水洗浄便座の正しい使用方法

洗浄ノズルに汚れた水が飛び散るのを最小限に抑えるための使い方について説明します。

ステップ1. 水圧・水温を調整する
水圧は弱めに設定し、水温は人肌程度の温度が刺激が少なくて済みます。

ステップ2. 排便を行う。

ステップ3. 洗浄する
洗浄時間は5〜6秒程度で十分です。この際、肛門やデリケートゾーンに直接水流を当てないように注意しましょう。

ステップ4. トイレットペーパーで拭いて余分な水分を取り除く。
温風乾燥の時間を短縮するために、軽く水分を拭き取ってください。

ステップ5. 最後に乾燥機で乾かす。
乾燥しすぎないように注意が必要です。

以上の5つのステップは、肛門やデリケートゾーンの皮膚(粘膜)への洗浄による刺激を最小限に抑え、かゆみの発生を防ぐ洗い方でもあります。

温水洗浄便座の交換

温水洗浄便座は機械であるため、経年劣化や故障などにより、交換が必要になることがあります。最新の機種の多くには洗浄ノズルの除菌や乾燥機能が搭載されています。定期的な洗浄は不可欠ですが、それでも細菌の繁殖は抑えられます。その際には、細菌汚染されにくい機能を持つ温水洗浄便座を選ぶことが重要です。特に、貯湯タンクのない瞬間式温水洗浄便座を選択することを推奨します。瞬間式温水洗浄便座は、貯湯式のものに比べて高価格ですが、貯湯タンクが存在しないため、タンク内に細菌が繁殖することがありません。また、電気代も貯湯式に比べて安く済むため、十分に検討する価値があります。

まとめ

温水洗浄便座の構造上、洗浄ノズルには大腸菌や緑膿菌といった細菌が付着していることがあります。このため、洗浄ノズルに細菌が付着すると、洗浄水が細菌汚染されてしまうため、洗浄ノズルを常に清潔に保つことが求められます。洗浄ノズルを清潔に保つためには、「汚さないこと」と「汚れたらきれいにすること」が非常に重要です。温水洗浄便座を正しく使用し、洗浄ノズルを必要以上に汚さないように心掛けましょう。また、定期的に洗浄ノズルを清掃し、汚れを残さないようにすることが大切です。この際、専用の洗浄剤を使用することも非常に効果的です。最近では、最新の温水洗浄便座には洗浄ノズルの細菌対策機能が装備されているものが増えてきています。もし近い将来に買い替えを考えている場合には、瞬間式で洗浄ノズルの除菌機能がついた製品を選ぶことをぜひお勧めします。

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