日本のスーパーマーケットに並ぶ美しい卵は、様々な料理において欠かせない存在であり、手頃な価格で手に入るため、家計をしっかり管理したい主婦(夫)にとっては心強い味方です。
卵に限ったことではありませんが、私たちは常に少しでも安い商品の購入を目指していると感じることが多いと思います。
卵は安価でありながら栄養価が高い食材です。特売日には、なんと1パック100円以下で購入できることもあります。しかし、こうした卵がなぜこのように安い価格で販売されているのか、一度考えたことはあるでしょうか?
私たちの食卓に並ぶ卵は、どのような過程を経て私たちの手元に届いているのでしょうか。それでは、日本における卵の生産の現状について少しお話しさせていただきます。
採卵鶏の飼育方法
採卵鶏の飼育方法は大きく分けて、ケージ飼い、平飼い、放し飼いの3種類に分類されます。それぞれの飼育方法について詳しくまとめてみました。
ケージ飼い
ケージ飼いとは、その名の通り、鶏を小さなケージの中で飼育する方法です。連結されたケージの中には、1箱あたり2羽から10羽の鶏が入れられます。これらのケージは、排泄物が溜まる床から離れており、給餌器と給水器が設置されています。実際、日本の養鶏場の90%以上がこの方法で鶏を飼育しているのです。
ケージ飼いのメリット
– 限られた面積で多くの鶏を飼育できるため、非常に効率的です。
– 鶏は排泄物に触れることがないため、衛生的です。
ケージ飼いのデメリット
– 過密な状態で飼育されるため、鶏の行動や運動は大きく制限されます。
– ストレスがかかりやすく、病気になりやすいため、投薬治療が必要となることが多いです。
平飼い
平飼いは、鶏を鶏舎の中で地面に放して自由に飼育する方法です。鶏たちは、鶏舎の内部を自由に歩き回り、砂浴びをしたり、止まり木があればそこで羽を休めたりすることが可能です。
平飼いのメリット
– 自然に近い環境で飼育されるため、鶏にストレスがかかりにくく、自由に動き回れるため運動不足になる心配がありません。
平飼いのデメリット
– 鶏舎の管理状態によっては、排泄物を踏んだり、土の中の害虫を食べることがあり、不衛生になる可能性があります。
– 生産量が少ないため、安価に提供することが難しくなります。
放し飼い
放し飼いは、鶏が鶏小屋と屋外を自由に行き来できる飼育方法です。しかし、日本ではこの方法を選ぶ養鶏場は非常に少数です。
放し飼いのメリット
– 自然界に最も近い飼育方法であるため、鶏たちは本能に従って生活でき、健康的で生き生きとしています。
– 排泄物の処理を行う必要がないため、手間が少なくなります。
放し飼いのデメリット
– 野生動物に襲われる危険性があります。
– 野鳥の糞などからウイルスが侵入する可能性があります。
このように、それぞれの飼育方法には明確なメリットとデメリットが存在します。そして日本では、ほとんどの養鶏業者がケージ飼いを選択しているのが実情です。
卵を大量に生産することに重点を置いた飼育を行うと、鶏たちはどのような状況に置かれるのでしょうか。狭いケージの中で、何羽もの鶏が重なり合って生活を強いられ、自由に動くことすらできません。自然界では、鶏は通常1年間で数十個の卵を産むとされていますが、採卵鶏はこのような飼育環境下で、年間300個以上の卵を産むことが求められます。この不自然な産卵能力は、鶏の身体に大きな負担をかけ、病気になる鶏が増加し、結果的に投薬治療が必要になる事態が頻発します。
アニマルウェルフェアという概念をご存知でしょうか?
アニマルウェルフェアとは
アニマルウェルフェアは、欧州で生まれた考え方で、感受性を持つ生き物としての家畜に対して関心を寄せ、生命の始まりから終わりまでストレスをできる限り減らし、行動の要求を満たしつつ健康的な生活を送ることを目指す畜産のあり方です。この考え方は日本では「動物福祉」や「家畜福祉」として訳されています。
農林水産省も、このアニマルウェルフェアの理念を踏まえた家畜の飼育管理の普及に努めています。しかし、日本におけるケージ飼いは、アニマルウェルフェアの考え方に則っているとは到底言えないのが現実です。
私たち日本人にできる事
日本で生活していると、品質が高く衛生管理が徹底された商品を安価で手に入れることに慣れ過ぎているのではないでしょうか。この安価な商品を手に入れる背景には、その作り手がわずかな利益しか得られないという厳しい現実が存在します。そして、そのわずかな利益を大きくするためには、大量生産という生産スタイルに依存せざるを得なくなるのです。
大量生産で販売される安価な商品が、もし命あるものであった場合、私たちはその感受性を持つ生き物に対して心を寄せることができるのでしょうか。卵の大量生産の背後で、鶏たちはどのような思いを抱いているのでしょうか。身動きが取れないケージの中で、羽を広げることすらできず、ただひたすら毎日卵を産むことを強いられているのです。
スーパーの特売日には、100円以下で販売されている10個入りの卵を見かけます。安いからといって手に取る前に、この卵がこの価格で販売される背景に少し思いを馳せてみると、鶏たちの苦しみが少しでも見えてくるかもしれません。
私たちが理解しなければならないのは、ケージ飼いを行っている養鶏業者が悪いのではないということです。養鶏業者は、私たち消費者のニーズに応えるために、このような飼育方法を選んでいるのです。
消費者として、安価な商品を手に入れることだけを考えてしまうことが多いですが、その商品が安く販売される裏側には、様々な事情が存在しています。その背景を少しでも考えることで、商品の生産者やその幸せに目を向けることができるのではないでしょうか。
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